読書感想「果てしなき渇き」(深町秋生)

 

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)

 

内容(「BOOK」データベースより)

部屋に麻薬のカケラを残し失踪した加奈子。その行方を追う、元刑事で父親の藤島。一方、三年前。級友から酷いイジメにあっていた尚人は助けてくれた加奈子に恋をするようになったが…。現在と過去の物語が交錯し、少しずつ浮かび上がる加奈子の輪郭。探るほどに深くなる彼女の謎。そして用意された驚愕の結末とは。全選考委員が圧倒された第3回『このミス』大賞受賞作品。読む者の心を震わせる、暗き情念の問題作。

 

いや、この本はちょっとなあ。

面白いかつまらないかでいえば面白い。巻置くを能わず、という感じですが、ちょっと自分の好みではなかったなぁ。

一言でいえば「ノワール」ってことなんでしょうけど、うむう。

映画版(「渇き。」)では主人公藤島を役所広司さんが演じているらしいです。未見ですが、役所広司のイメージとはまったく違うのでびっくりしましたが、でもまあ、「ドッペルゲンガー」とか、けっこうそういう役も演じてますね。

 

関係ないですが、昔、NHKでやってた「宮本武蔵」が最初に役所広司を知ったドラマで、とても印象に残ってます。たしかお通は賀来千香子だったかな。

 

「果てしなき」に話を戻すと、元刑事の中年男が失踪した娘を探す、というわりによくある筋書き(たとえば「64」とかもそうですよね)で始まったのに、途中からえらくバイオレンスで非倫理的な話になっていってしまって。

主人公の焦燥感は分かるけど、ちょっと感情移入できなかった。

まあでも間違いなく面白いですよ。

映画「オデッセイ」を観てきた(多少ネタバレあるかも)

日曜のお昼に観てきました。

多分、その館で一番か二番目に大きいスクリーンで、7割くらい入ってた印象。

バレンタインデーだったせいか、カップルが多かったかな。

 

ストーリーは各所で紹介されているとおりで、火星に一人取り残されたマット・デイモンが助けが来るまで何とか生き残ろうと頑張る映画です。

火星でダッシュ村の趣もあって、特に水を作ってイモを育てるとことか、それが順調にいくとことか、「ああ、これが火星でダッシュ村って言われてたとこか」と腑に落ちました。この辺、理系的なワクワク感があって面白かった。

 

togetter.com



映画全体の感想としては、「やっぱアメリカってすげえな」って思いました。

アメリカがすごいというか、科学的に合理的に思考することが善とされること、DIY精神というんでしょうか、自分自身の力で問題を解決することが善とされること、その過程をエンターテイメントとして消化できること、でしょうか。

日本映画ではなかなか無い類型のエンターテイメントだと思うんですよね。

思考のパターンが日本人とはちょっと違うというか。


たとえば、火星に一人で取り残されて、向こう4年は助けが来ないであろう状況で、主人公が最初にやったことが(ケガの治療を除き)、手持ちの食糧の量を可視化して、それでどれくらいの期間もつかを割り出し、救援が来るまでには不足する分をどうすべきかを考える、ですからね。

目的から手段・過程を割り出して合理的に解決していく。

ツイッターで「日本で作ったら『海猿』になる」と言われてるのを見たけど、たしかにこんな風に困難を合理的に解決していく過程を、ほぼ情緒を挟まず、しかもユーモアもあるエンターテイメントにするのは、日本は不得手だろうなぁ。

ダッシュ村には、問題解決過程のワクワク感的な面白さはあるけど、そもそもの目的(村や島の開墾とか)が、ためにする目的だし。まあバラエティーだからそれでいいんだけど。

地球にいるNASA側の話でも、トップが「責任は自分が取る」といってリスクを取る(結果は凶と出たけど)、ボトムアップで上がる良案を採用する(少なくともトップにまで上がる。)、いったん立てた計画を途中で変更する。情報は公開されるのが前提な点もそうだし。

この映画のNASAは、必ずしも観客に全面的に好意的に受け取られるように描かれているわけではなくて、たとえば最初は長官もマット・デイモンの救援に及び腰だったり、マット・デイモンが生きてたことを最初は他のクルーに隠そうとしたり、結局はクルーの造反で解決するところもあったり。

だから、NASAは必ずしも「正義の組織」としてあるわけじゃないけど、問題解決のために組織がちゃんと合理的に 動く様を映画のなかできちんと示すことができるっていうのが、まあ当たり前といえば当たり前なんだけど、日本の映画ではあんまり見ないかなぁと思いました。

 

ネタバレになりますけど、こういうストーリーの映画だから、まあ最後にマット・デイモンが地球に帰れないなんてことは無いわけですよ。

だけどひょっとして救援されないかも?てところで観客をハラハラさせるんだろうなてことも、予め予想できて、実際、そのとおりのプロセスをたどって大団円をむかえるわけですよ。

だけど全く予定調和な印象が無く、ちゃんとハラハラした上で感動できる(というかクライマックスでは実際、ちょっと泣きそうになりました。)。

 

あと、宇宙モノの映画では必ずある、でっかいスクリーンのある管制室みたいなとこで皆が打ち上げとかをハラハラと見守ってて、上手くいって喝采する、ていうシーンもちゃんとあります。

 

ストーリー全体、その演出の端々にいたるまで、良い意味でのアメリカ的価値観に溢れていて、しかもそれが鼻につかずにちゃんと感動できる、すごい映画を見たなーというのが正直な感想です。

文句なしにオススメだし、これはちゃんと映画館で観るべき映画だと思います。

 

 

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

 

 

ゴディバのクッキー

今週のお題「バレンタインデー」

 

バレンタインデーといえばゴディバですね。

 

 

実は鳥取市にも駅ビル(ただし2階建、1階のみ営業)の中にゴディバがありまして、スタバほどではないですけど、できたときには結構な繁盛ぶりでした。

 

ところで、ゴディバの中で自分が一番、好きなのは、クッキーです。クッキー。

 

「ゴディバ (GODIVA) クッキーアソート 8枚」 |  ゴディバ(GODIVA)公式オンラインショップ

 

こういうの。

 

要はアルフォートなんですが、アルフォートを最上級に美味しくした美味しさがあります。

 

ゴディバでクッキー買おうってなかなか思わないじゃないですか。

 

でも間違い無く美味しいので、贈答品とかにオススメです。

 

 

「お気に入りの一着」無印良品の綿天竺アイマスク

「お気に入りの一着」のお題で書こうと思って、自分の洋服を思い返してみたんですが、「お気に入りの一着」が無い、というか、持ってる服がどれも大して好きじゃないことに今さら気づいてびっくりしました。

そうか、そんなに衣をおろそかにしてたか、おれ。

安くてもシンプルで機能的な服を買うように心がけなきゃ。

 

ということで、身につけるもので他になんか無いかな、と考えたんですが、ありました。

毎日、愛用してるコレ 

www.muji.net

 

色んなアイマスクを試してきましたけど、コレが最強だと思います。

コットンの柔らかい肌触りといい、ガンガン洗える耐久性といい、たった700円のコストパフォーマンスと良い、折りたたんで専用袋に入れられる携帯性といい。

全国の無印良品で変えるのも良い。

鼻側にフラップ?が付いてて遮光性も言うことなしです。

 

まあアイマスク自体が嫌いとか、気になって逆に寝られないという人にはもちろんオススメできませんが、ピッタリしたアイマスクを探してると言う人はとりあえず試して頂きたいです。

 

あれ、でも無印のHPでの評判はそれほどだな。

良いと思うんだけどな。

 

 

 

 

 

 

年越し

あけましておめでとうございます。

今年の年越しは、家でももクロのカウントダウンライブ見ながら、どん兵衛を食べてました。

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「きのう何食べた」の中で、ケンジが一人でサッポロ一番を食べながらジャニーズカウコン見つつ年を越す、ていうシーンがありますけど、ちょうどあんな感じでした。

しあはせも 中くらいなり おらが春

今年もよろしくお願いします。



読書感想「天狗争乱」(吉村昭)☆☆☆

 

天狗争乱 (新潮文庫)

天狗争乱 (新潮文庫)

 

 

内容紹介

桜田門外の変から4年――守旧派に藩政の実権を握られた水戸尊攘派は農民ら千余名を組織し、筑波山に「天狗勢」を挙兵する。しかし幕府軍の追討を受け、行 き場を失った彼らは敬慕する徳川慶喜を頼って京都に上ることを決意。攘夷断行を掲げ、信濃、美濃を粛然と進む天狗勢だが、慶喜に見放された彼らは越前に 至って非情な最期を迎える。水戸学に発した尊皇攘夷思想の末路を活写した雄編。

 

吉村昭の小説ってイマイチ苦手なんですよね。好きな人にはそこが魅力なんだろうけど、あまりに厳密で硬質な文章過ぎて。

とはいえ、『戦艦武蔵』とか『羆嵐』とか、それなりに代表作は読んでますが、この『天狗争乱』は未読でした。

いわゆる 天狗党の存在自体は知ってたけど、司馬史観というか「熱狂的に尊皇攘夷を掲げる、水戸浪士が、大局観なく暴発して無残な最後を遂げた。幕府の処分も苛烈であった。」くらいしか知りませんでした。素朴な疑問として、幕藩体制に背く武装集団が水戸から越前まで、どうやって移動できたんだろう、と思ってた位です。

この小説では、藤田東湖の子・藤田小四郎ら「天狗派」が挙兵し、水戸藩内の「門閥派」と闘争した末、はるか京都に向かい、越前で投降して処罰されるまでが、時に冗長に思えるほどに丹念に辿られます。

読む前は、漠然と、「なんで水戸の人らが越前で投降したんだろう。その間はどうやって進行したんだろう」と思ってたんですが、その道筋や、行く先々での諸藩や地元民とのやりとり、折々での天狗派の決断など、丹念に描かれます。

それによると、そもそも天狗派の人々は、水戸藩内の闘争に介入して追い詰められた末に、京都にいた一橋慶喜に自らを委ね攘夷の先兵となるために、京都を目指したんですね。

1000人規模の戦闘力も士気も高い天狗派が、甲州街道中山道を辿って西進するのを、途上の各藩は、お金を払ったりして間道を通ってもらう。天狗派もそもそも戦いたいわけではないからそれを承諾して、整然と粛々と行軍する。そんなわけで、一部例外はありつつ、ほぼ抵抗にあうことなく西進することができた。

行く先々ではきちんと宿賃等を支払い、借り上げた民家等の清掃も行って、粛然と進行する天狗派の描写は、刷り込まれていた「狂乱の末、暴発した水戸浪士」という読前のイメージとは全然、違いました。

隊士の妻女など女性も帯同してた、それでも秩序正しく行軍したというのは驚きました。

 

ところが彼らが頼みにしていた一橋慶喜という人は、幕府内の保身のために、あっさりと彼らを見捨てるんですね。むしろ投降の折衝をした加賀藩士は、親身になって懇願するんですが、それをにべもなく受け付けない。

鳥羽伏見の際に大阪から逃げ帰るのもそうですが、この人は、一体、何なんでしょうね。

まあ歴史の大局が見えすぎたっていうのもあるんでしょうけど、天狗派に対する扱いは余りに酷薄でむごい。これでは人はついてこないだろうに。

 

結局、天狗派は、その思想に忠実で、節義ある進退を弁えていたがために、時局の荒波に翻弄されて、無残な最期を遂げることになります。そこに歴史というものの冷酷さと、個々の人生の不条理を浮き上がらせるのに、吉村昭の硬質な文章はまさに最適ではあります。

 

自分の好みとしては☆3つですが、この小説が吉村昭の代表作として高く評価されるのは十分に分かりました。