読書感想「大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争」(辻田真佐憲)

 

大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)

大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)

 

 

内容紹介

信用できない情報の代名詞とされる「大本営発表」。その由来は、日本軍の最高司令部「大本営」にある。その公式発表によれば、日本軍は、太平洋戦争で連合軍の戦艦を四十三隻、空母を八十四隻沈めた。だが実際は、戦艦四隻、空母十一隻にすぎなかった。誤魔化しは、数字だけに留まらない。守備隊の撤退は、「転進」と言い換えられ、全滅は、「玉砕」と美化された。戦局の悪化とともに軍官僚の作文と化した大本営発表は、組織間の不和と政治と報道の一体化にその破綻の原因があった。今なお続く日本の病理。悲劇の歴史を繙く。

 

「「あてにならない当局の発表」の比喩として盛んに使われている」大本営発表について(もっとも、最近のネットでは、たとえばJリーグの移籍情報について「大本営発表」といえば、オフィシャルに近いマスコミからの確度の高い情報、というように使われることも散見され、少し事情が変わってきているのかもしれません。)、実際はどうだったのか、またなぜそうなったのかを具体的に論じた本です。

今まで知らないことがたくさん載っててこれも面白かった。

 

著者によれば、開戦直後は日本軍が連戦連勝だったために真実を発表すればよく、ほぼ正確な発表がされており、むしろ加熱する新聞社の報道合戦に引きずられるところもあったとか。

それが、よく言われるような、嘘・大げさ・(全滅を「玉砕」とかの)言い換えのいわゆる「大本営発表」となったのは、やはりミッドウェー以後だとか。

正規空母4隻を失って惨敗したことを正直に発表したら国民の士気が下がる、との配慮で、「自然の成り行き」で「航空母艦一隻喪失、同一隻大破、巡洋艦一隻大破」と過少な発表になった。

以後はタガが外れたように、同様の味方の被害は過少に、戦果は過大に(というかありもしない戦果をでっち上げて)発表することが常態化するようになったとのことです。

昭和天皇が「たしかサラトガが沈むのは4回目だと思うが」と言ったのも有名なはなしです。

 

しかし、もともと山本長官が「一年か半年は暴れて見せるが」と始めた太平洋戦争の開戦半年後にあった大海戦がミッドウェーだったわけで、そこで惨敗したのなら、終戦に舵を切っていくべきだったんでしょうね。もちろん、後知恵ですけど。

そこで「国民の士気を下げないために」ということで虚偽発表したのが、以後の太平洋戦争の悲劇の一因なんでしょう。

 

太平洋戦争時の日本軍の組織的欠陥はよく言われるところです。たとえば縦割的官僚機構による組織間不和、情報・兵站の軽視、人命の軽視、属人的技能の尊重と標準化の軽視、責任の所在の不明確さなど。

大本営発表の経緯を見ていっても、日本人としてため息をつきたくなるような愚昧な成り行きに暗澹とします。

たとえば組織間不和の例として陸軍と海軍が大本営発表の片言隻句で対立する様が描かれたり、責任の所在の不明確さの例として、上記ミッドウェーに関する大本営発表が、軍令部と軍務部の対立の中で「自然の成り行き」で決まったりだとか。

この本では、最後に東日本大震災での福島第一原発に関する政府発表や報道等にも触れていますが、言われるまでもなく、太平洋戦争時の日本軍の惨状は、日本人、日本的組織の宿痾として向き合っていかないといけないものだと思います。

 

ところで、マスコミと軍部の癒着についても多く触れられてるんですが、その中で有名な竹やり事件(  Wikipedia )にも触れられていて、知らなかったんですが

最終的に海軍が介入したこともあって。新名は召集を解除され、海軍報道班員となってフィリピンに渡り生き延びた。ただ、一緒に召集された老兵たちは召集を解除されず全員硫黄島に送られて、その多くが戦死してしまった。これほど酷いとばっちりはない。

ていくらなんでもひどすぎないか。

37歳で異例の召集を受けて硫黄島で玉砕するって、本人たちはどう思ってたんでしょうか。そもそも新名記者の「竹槍」記事だって海軍の提灯持ち的記事に過ぎないのであって、そこに東条英機はじめ陸軍が介入したために、こういうことが起こったので、これも日本軍の愚劣さの一例といえるんでしょうね。