読書感想「幻の近代アイドル史 明治・大正・昭和の大衆芸能盛衰記」( 笹山敬輔)☆☆☆☆

 

 ちょっと前に話題になったこの本、機会があって読んでみましたが、いや面白かった。

 

義太夫の時代からドルオタがいたとか、コールやMIXみたいな「ドースルドースル」「トゥルル」がそのころからあったとか、著名人の誰それ(漱石志賀直哉など)が誰のファンだったとか、興味深い話が色々出てきます。

 

この本を読んでると、未完成な少女に過剰に思い入れをして、どうかしてるくらいに応援して騒動を起こす、今のドルオタみたいな連中は当時もいたんだなぁというのが非常に興味深いです。

上記のコール・MIXもそうですが、出待ちおっかけ、マジ恋して求婚とか、ファン団体同士で衝突したり、新聞の投書欄に匿名でネガコメしたり、やってることが今のドルオタとそっくりです。

この本では、明治20年の竹本綾之助から話が始まりますが、きっと(というか絶対に)それ以前から同じようなドルオタは日本にいたんだろうなと思います。

 

何より、著者自身が(多分)ドルオタで、アイドルの魅力を分かってるのが良いですね。

アイドルの魅力って、ルックスだけでもないし、歌やダンスのスキル自体でもないわけですよ。「○○は歌も踊りも下手なのに、男に媚びを売って不当に人気を得ている」というのは、今のAKB初めとしたアイドル批判の常套句だと思いますが、アイドルの魅力ってそういうことじゃないんだよ、それでは「アイドル」という存在をつかみ損ねてるよ、というのが、ドルオタなら言わずもがなのことですが、こうした真面目な演芸史できっちり押さえられてるのが心強いです。

各章や節の見出しに、いちいち小ネタが仕込まれてるのもニヤッとしちゃいます。

たとえば終章は「それでも好きだよ」ですからね。

 

ちなみに表紙の少女は、新宿ムーランルージュで空前の人気を得た明日待子氏です。

226事件前に参加師団の兵隊が起立して送ったとか、戦争中でも出征前の兵士に握手して見送ったとか、時代を感じさせるエピソードがいっぱいで、これも面白かった。