読書感想「裏山の奇人:野にたゆたう博物学(フィールドの生物学)」(小松貴)☆☆☆☆

 

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

 

 

 

虫とか動物とかまったく門外漢なんで、専門的な話にはついて行けないところもあったのですが、この本は面白かった。

文章になんとも言えないユーモアというかペーソスがあって、書いてある内容、つまり昆虫とか動物とか、蟻とかコオロギとか、全然、興味はないんですが、ついつい引き込まれしまいます。

家族が入院している病院で夜通し待たないといけない時間があったので、積読になってたこの本を持って行ったんですが、わりにシリアスな状況なのに一気に読んでしまいました。

内容は、幼い頃から虫好きだった著者(今は32歳?かな)が、信州大学に進学して、長野の山の中で趣味のフィールドワークをしつつ、専門の好蟻性昆虫の研究のために、ペルーとかマレーシアに行って虫を捕ってくる、ていうノンフィクションというか自伝的エッセイというか。

これだけ聞いても全然、面白くなさそうですけど、著者の「奇人」ぶりと、上記の文章のうまさでぐいぐい読んでしまいます。

内容も、昆虫自体はにはやっぱり興味は湧かないんですけど、著者が苦労して目当ての昆虫を捕まえたり、その生態を明らかにする過程が、ある種のミステリのようで面白い。これを読んで、昆虫やフィールドワークに目覚める人がきっといるだろうなとは思います。

著者が博士論文の謝辞に12人の女性を加えたところ、指導教授から「実在しますか?」と赤ペンが入ったっていうところは、病院の廊下で声を上げて笑いました。いや、この人、本物だわ。

 

しかし、この著者は昆虫研究者として希有な才能と情熱を持ってるし、それ以外に生きようもないと思うんですが、そんな著者ですらポスドクで就職先を見つけるのに苦労して、暗い将来を思って気が狂いそうになる、っていう描写を見ると、暗澹としますね。

たしかに、好蟻性昆虫の研究が普通の人たちの生活に役立つことは無い、というのは著者自身も認めるところではあるけど、科学の発展のために、こんなにも真摯な著者がもう少しは報われてほしいなぁと思います。

 

最近、一部で昆虫ブームが来つつあるし、食用コオロギのニュース( 仏産コオロギ、日本の食卓に 食用に養殖、お味は…:朝日新聞デジタル )もありましたし、昆虫や、著者のような昆虫学者への一般の評価が高まると良いなと思います。